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福岡地方裁判所 昭和36年(行)7号 判決 1963年1月31日

原告 白尚録

被告 福岡県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和三六年一月二三日付でなした三六計発第八三号、三六建発第七二号建築物除却命令は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

「一、別紙目録記載の建築物(本件建築物)は、昭和二三年一二月下旬頃訴外金海興培により建築せられ、昭和二四年一月二二日その保存登記がなされたものであるが、原告は、昭和二六年三月一三日同訴外人よりこれを買受け、昭和三二年五月一〇日その所有権移転登記を了した。二、被告は昭和三六年一月二三日付で原告に対し三六計発第八三号、三六建発第七二号除却命令書により本件建築物を除却すべき旨を命じた。右除却命令書には、本件建築物は市街地建築物法施行令第二九条の二、建築基準法第四四条および都市計画法施行令第一一条による許可を受けないで建築されたものであるから、市街地建築物法第一七条建築基準法第九条によりその除却を命ずる旨記載せられている。三、しかしながら、本件建築物は前記のとおり建築基準法施行以前に建築せられたものであるから、同法適用の対象とならないのにかかわらず、被告は同法第九条の規定により本件建築物の除却を命じているから、本件除却命令は違法である。かりに、右除却命令書の適用法令として建築基準法を掲記した部分が誤記であるとしても、前記除却命令書の記載によつては、被告がいかなる根拠に基いて本件建築物の除却を命じたものであるか不明確であつて、原告が訴願その他の方法により、これに対する救済を図ろうとする利益を著しく侵害する結果を招来するものであるから、本件除却命令は違法であるというべきである。よつてその取消を求めるため本訴請求に及ぶ」と述べ、被告の本案前の抗弁に対し、「原告は本件除却命令に対し適法な訴願を申立てていないが、それは原告が第三国人であり法規および日本語に通じなかつたためであるから、右訴願手続を経なかつたことについて正当の事由がある」

と述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、

「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として、

「原告は本件除却命令に対し適法な訴願を申立てていないから原告の本訴請求は、訴提起の要件を欠き不適法というべきである」と述べ、次いで、本案について、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「原告主張の一の事実中、本件建築物の除却を命じた当時、原告がこれを所有していたことは認めるが、その余の事実は不知。二の事実は認める。三についてはこれを争う。すなわち、本件除却命令書に、その適用法令として市街地建築物法等のほか建築基準法等を併記したのは、本件建築物の建築年月日が不明であつたため、これにつき、市街地建築物法、建築基準法のいずれが適用されるか判然としなかつたことによるものである。したがつて、本件建築物の建築年月日が原告主張のとおりであるとすれば、市街地建築物法が適用せられるわけであるけれども、本件除却命令書には、同法第一七条により本件建築物の除却を命ずる旨の記載があるから、本件除却命令は違法ではない」と述べた。

(証拠省略)

理由

先ず被告は、本案前の抗弁として原告は本件除却命令に対し適法な訴願を申立てていないから訴提起の要件を欠き不適法である旨主張するのでこの点について判断する。

原告が本件除却命令に対し適法な訴願を申立てていないことは当事者間に争がない。そして、成立に争のない甲第二号証と弁論の全趣旨を綜合すると、本件建築物はおそくとも昭和二四年一月二二日頃以前に訴外金海興培により建築せられたことを推認しうべく、したがつて、本件建築物は、建築基準法施行以前に建築せられたものであるから、これに対する除却命令は市街地建築物法第一七条に基いてなされるべきものというべきである。ところで同法第二一条、第二二条の規定によれば、同法による処分に対しては訴願することができ、その不服の理由が違法処分により権利を侵害せられたとする場合であれば、それとは別に行政裁判所に出訴することができる(もつともその場合には主務大臣に訴願することができない。)旨の規定があり、みぎの規定にいう行政裁判所とある部分は、行政裁判所が廃止された後は単に裁判所と読みかえたうえで、みぎの規定は依然としてその効力を有するものと解するのが相当であるから、被告のなした本件除却命令により権利を侵害せられたとする場合には、行政事件訴訟特例法第二条の適用は排除せられ、同法所定の訴願手続を経ないで直接裁判所に対しその取消請求訴訟を提起しうるものというべきである。

してみれば原告が訴願の裁決を経ないで本訴を提起したことは不適法とはいえないので被告主張の本案前の抗弁は採用に値しない。

そこで本案について判断することとする。

被告が本件建築物の除却を命じた昭和三六年一月二三日当時、原告がこれを所有していたこと、被告が同日付で原告に対し三六計発第八三号、三六建発第七二号除却命令書により本件建築物を除却すべき旨命じたこと、右除却命令書に、本件建築物は市街地建築物法施行令第二九条の二、建築基準法第四四条および都市計画法施行令第一一条による許可を受けないで建築せられたものであるから、市街地建築物法第一七条、建築基準法第九条によりその除却を命ずる旨の記載があることはいずれも当事者間に争がない。そして、本件建築物が、昭和二四年一月二二日頃以前に訴外金海興培により建築せられたものであることは前記認定のとおりである。

ところで原告は、本件建築物は、建築基準法施行以前に建築せられたものであるから同法適用の対象とならないのに、被告は同法第九条により本件建築物の除却を命じているから本件除却命令は違法であり、また、本件除却命令書の記載によつては、被告が本件建築物の除却を命じた根拠が不明確であつて、原告の訴願その他の方法によりこれに対する救済を図ろうとする利益を著しく侵害する結果を招来するものであるから、本件除却命令は違法であると主張するので、按ずるに本件建築物が建築基準法施行以前に建築せられたものであり、したがつて同法適用の対象とならず、本件除却命令は市街地建築物法第一七条に基いてなされるべきものであることは前記のとおりであるけれども、本件除却命令書にその適用法令として同法第一七条、建築基準法第九条により除却を命ずる旨の記載があることは前記のとおりであり、このことと弁論の全趣旨を綜合すると、みぎの記載は、本件建築物の除却を命じた際、被告においてその建築年月日が明らかでなかつたために、その建築年月日が建築基準法施行以前である場合には市街地建築物法第一七条を、また建築基準法施行以後である場合には同法第九条をそれぞれ適用するとの趣旨に解釈すべきである。

したがつてみぎの記載の趣旨からすれば、本件除却命令は前記市街地建築物法第一七条によりなされたものというべきであつて、原告主張のような違法はない。また、成立に争のない甲第一号証によれば、本件除却命令書には、本件建築物は許可を受けないで建築せられたものであつて都市計画事業に支障を来していることを理由として、その除却を命ずる旨の記載があることが認められるから、本件除却命令書に、たとえ前記のように、その適用法令として、択一的な趣旨の記載がなされており、そのことが除却命令書の方式として妥当でないとしても、これをもつてたゞちに、被告が本件建築物の除却を命じた根拠が不明確であり、原告が訴願その他の方法により、これに対する救済を図ろうとする利益を著しく侵害するものであるとはいい難い。

したがつて、みぎの除却命令書の記載中に本件除却命令を取消すべき程度のかしがあるということはできない。

よつて原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 天野清治 大和勇美 福家寛)

(別紙目録省略)

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